東京高等裁判所 昭和27年(う)1178号 判決
原判決が昭和二十六年八月十九日頃より同年十二月十五日頃迄の間四十七回に亘り被告人が米軍第八〇六四部隊作業場においてエドワード・ローソン曹長管理に係る米軍所有のドアロツク合計五十七個、ドアラツチ合計十個を窃取した事実を認定し、その証拠として被告人の原審公判廷の供述を挙示しており、被告人は原審において検察官の朗読した起訴状及び追起訴状の公訴事実はその通り相違ないと陳述し又原審第三回公判において被告人は裁判官の「本件犯行の日時及び被害品の数量の点についてはどの様にして警察や検察庁で述べたのか」との問に対し「三井巡査に日時、数量の点を詳細に述べそれにもとづいて警部補や検察庁の取調べにも述べたものです」と答えておることは訴訟記録に徴し所論の通りであるが、被告人が司法警察員に対し犯行を自白した経過を訴訟記録によつて検討して見ると被告人は昭和二十六年十二月十六日午前一時頃横浜市中区三吉町二丁目十六番地先道路上において賍品を所持していたため緊急逮捕せられ、翌十七日司法警察員の取調べを受け同年十二月十五日の犯行を自白し、引続き余罪の取調べを受けた結果被害者より被害届が提出され同年十二月二十五日遂にその他の犯行を全部自白するに至つたことが明らかであつて、右自白は被害者の盗難被害始末書を見せられ記憶を喚起したか或は係官より被害者側の被害の日時、被害数量等を告げられ記憶を喚起したかは別として何れの方法によるにせよ四十数回に及ぶ犯行の日時及び被害品の数量を記憶に基き陳述することは必ずしも不可能ではないのであるから右被告人の自白がメモ等の記述に基かず又は被告人の記憶の正確性を裏書するに足る特別の事情を取調べなかつたからとて、右公判廷の供述を事実認定の証拠としたことを以て経験則に反し又は採証の法則に違反して事実を認定したと謂ふ非難は正当でない。のみならず原審は判示事実を認定するに当り十分な補強証拠を掲げており、被告人の自白が架空のものでないことが明らかな本件においては論旨は固より採用することができない。
(註 本件は量刑不当により破棄自判)